バー
大学4年の春。その土地を離れる前夜に
最後の挨拶、と思って一番世話になったバーに立ち寄った時
酒で知り合った飲み友達と一緒になった。
年上の女性で、喜んで飲みすぎる漏れ、悲しくて飲んだくれる漏れ、
なぜか酒の席での哀楽の瞬間を見られてしまい、
たまに介抱してくれる4年間の恩人。それよりも、夢見る餓鬼の憧れの人。
社会人一年生を控えた不安、大好きな友人・土地と別れる寂しさ、
いろんな思い出をポツリポツリ話していたら、
普段は寡黙なその人も、昔の思い出や将来の夢を話し出して、
「明るい未来を勝ち取れ」って元気付けてくれた。
その日は結局、他に来客もなく、マスターの計らいもあって
閉店時間を過ぎてからも、空が白むまでずっと、二人の時間が流れた。
そして、発つ時間が迫って来たという漏れの話を聞くと
「見送ってあげるよ。」と一言。
駅までの大通りを一緒に歩いて、終に新幹線のホーム。
しばし言葉もなく佇んで、愈々ドアが閉まるか、と、その時。
「じゃ、いい男になって帰ってこいよ!」
気の利いた返事も出来ないまま、新幹線は出発、
漏れはしばしデッキで人目もはばからずにボロボロと涙を流した。
あの人にすれば、ただの酔狂だったのかも知れないけど、
あの日の思い出がなければ、どこかでつまずいていたかも知れない。
いつかは戻りたいあのカウンターと恩師が健在でありますように。
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