号泣必至!!超泣ける話200話超デラックス

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シトロンの話

   

生まれて3ヶ月のとき、シトロンはうちに来た。

俺は小学校三年生だった。

それから俺は、毎朝犬小屋を覗いた。

丸くなって寝ているシトロンを呼んで、赤い綱をつけてやる。

川辺の空気という、腹の減る匂いを、朝から嗅がせるためだ。

だけど、一人歩きなんて、上等なことはさせてやらない。

その為の赤い綱だ。

シトロンは、小股で歩く。

やつは俺の撫で撫で攻撃を警戒してか、 斜め45度後ろを、とことこ歩いてくる。

やつが糞をしたら、目の前で拾う。羞恥プレイだ。

「こんなにしやがって、なんて健康的な犬なんだ」

言葉責めだって忘れない。

歩くのに飽きた俺は、シトロンを急き立てて、サイクリングロードを走っていく。

道の終点、公園まで一目散に。

水溜りの泥水なんて、飲ませてやらない。

お前には、公園の流水がお似合いだ。

4歳のとき、シトロンの心臓に虫が見つかった。

俺は手を変え品を変え、やつに薬を飲ます。

バカなシトロンは気づきもしない。

俺を信じやがって、美味そうに薬入りの餌を食いやがる。

そんな時だって、ドッグフードなんてやらないぜ。

高い飯なんて、お前の口には合わないだろ。

どうせすぐに吐き出しやがる。

お前には、味の薄い犬用メニューがお似合いだ。

8歳のとき、祖父さんが死んだ。

兄弟が泣く中、俺はじっと黙ってそれを見ていた。

人前でなんて、泣いてたまるか。

シトロンは俺の制服を汚して、しがみつく。

だけど、しゃがんでなんかやらない。

俺の頬なんか、舐めさせてやらない。

お前には、俺の足元がお似合いだ。

12歳のとき、シトロンは神経症になった。

後ろ足を引きずって、15分も歩けない。

公園はおろか、サイクリングロードまでなんて、とても行けやしない。

朝の散歩も、町内を周って、とっとと帰ってくる。

もう一度行きたいなんて、見上げたって、知らないぜ。

偉そうな顔をするくせに、少し歩くとしゃがみこむお前。

お前には、町内一周程度がお似合いだ。

13歳のとき、シトロンは行方不明になった。

仕事から帰ってきたら、いつもの小屋に、姿が無い。

赤い綱も無くなっていた。

俺のシトロンを、誰が連れて行きやがったのか、俺は家族を問い詰めた。

だけど誰も知らない。

町中、あっちこっちを走り回った。

だけど、どこにもシトロンはいない。

真夜中になって、ぐったりしたシトロンが帰ってきた。

近所のババアが、勝手に連れて行っていた。

問い詰めると、そのババアは毎日俺たちの目を盗んで、シトロンにプリンだの味の濃い煎餅だのも、勝手に食わせていた。

そんな人間様の食い物をやるんじゃねえ。

怒る俺に、ババアはいけしゃあしゃあと、
「散歩に行けなくて、可哀想」
だなんて言いやがった。

それを決めるのはお前か?

医者と相談していたのはお前か?

違う、俺だ。
シトロンは俺の犬だ。

ババアを警察に引き渡して、俺はシトロンを家に入れた。

庭の小屋になんか、もう帰してやらない。

お前には、俺の傍がお似合いだ。

14歳のとき、シトロンは寝たきりになった。

糞尿だって垂れ流し。

飯だって、俺様が食わせてやらなきゃ食えなかった。

「オラオラ腰を上げろよ」

ご主人様にケツを拭かせるなんて、なんてやつだ。

お前のために流す涙なんて、俺には無い。

悲しそうに見上げるなんて生意気だ。

お前は黙って、甘えてればいいんだよ。

堂々と寝そべってやがれ。

お前には、暖かい部屋がお似合いだ。

一年後の秋の日、シトロンは死んだ。

虹の向こうになんて、俺の許しも得ずに逃げやがった。

黒いくせに、時々青くも見えた瞳を半分開けたまま。

俺は、シトロンの目を閉じる。

それから、濡れた頬をなでる。

硬くなった身体は、地面に張り付いたようだった。

幸せそうに眠りやがって。

帰ってこいなんて、言わないからな。

俺が虹の向こうに着くまで、祖父さんと一緒に待ってやがれ。

お前には、静かな朝がお似合いだ。

お前の毛布も、おもちゃも、ずっと俺は捨てられない。

どうして15年しか生きなかった。

俺の力が足らなかったのか。

それとも、もっと早く送っちまった方が良かったのか。

どうせなら妖怪にでもなればよかったのに。

ミルクくさい香りで、家が満たされて、お前の匂いも、家中からどんどん消えていく。

虹が出たら俺は、小さな手を引いて、サイクリングロードを歩く。

俺の幸せをお前に見せつけてやる。

虹の向こうで、待ってやがれ。

 - 動物の泣ける話

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