ばあちゃんちにあるものなんでもお食べ
先月、祖母が亡くなりました。89歳でした。
孫の中では私が一番年下なせいか(父が末っ子)、いつも私は「小さい子」扱いで可愛がってもらってました。
「○ちゃん、お腹空いてない?おやつあるよ、羊羹もきんつばもあるよ。ばあちゃんちにあるものなんでもお食べ」
といつも言われていました。和菓子があまり好きでない私は、いつもちょっと困ってました。
ひ孫もいるけれど、晩年に痴呆の症状が出てきていた祖母は、ひ孫のことを私の名で呼んだりしていました。
きっと私のイメージはいつまでもそのように「小さい子」だったのでしょう。
もういよいよ危ないというとき、両親と共に病院になんとか間に合い、祖母と話ができました。
祖母は父に、母に、何度も何度もお礼を言っていました。
けれど、私の顔を見るなり急に動転しだしたのです。
「○ちゃん、お腹空いてない?お腹空いてない?大丈夫?お腹空いてない?」
そればかりを繰り返すようになった祖母・・。
私が「大丈夫だよ、おなかいっぱいだよ。ご飯食べたばかりだよ」と言うと、心底ほっとした顔をしてました。
父が「母さん、棚に羊羹があったろう。あれを食べたから大丈夫だよ」と目に涙を浮かべながら言いました。
「そうかい、羊羹あったかい。それじゃ安心だ。・・○ちゃん、お腹空いてない?大丈夫?」
同じ会話をずっと繰り返し、しばらくして祖母は静かに眠り、そのままずっと眠りにつきました。
父から、祖母は戦中・戦後の貧しさの中でわが子を亡くした人であったこと、弱ったわが子(父の姉)が
地主さんから恵んでもらった羊羹で助かったことがあることを教えてもらいました。
「○ちゃん、お腹空いてない?お腹空いてない?・・」
あれは、祖母の魂からの叫びだったのでしょう。
恥ずかしながら、生まれて初めて、「戦争」と「それが人の心に残したもの」という言葉がもつ本当の意味を
見せ付けられたと思いました。
それに対する感情は、本当に恥ずかしいのですが、あまりにも衝撃的でした・・。
父がこっそり仏壇に話しかけるんです。
「母さん、お腹空いてないかい?大丈夫かい?」
よく父が羊羹を買って帰ってきます。祖母は、平和になってからも自分で食べることは滅多になかったそうです。
戦争ってなんなんだろう、どうして起こったんだろう、どうして今すらこんなにも悲しいんだろう・・。
祖母が亡くなったあの夜は、人生で一番衝撃的な夜でした。
せめて、これからもいっぱいいろんなことを考えようと思います。
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