九死霊門
私の実家がある地域は山が多く、沢山の特徴があるのですが、野生のクマが生息していることでも有名な地域です。
春から秋にかけては、都会から温泉や観光の目的で多くの客が訪れます。
ここら辺の集落では、昔から山菜取りなど山に入って生計を立ててきた人も多く、 その中でもクマとの遭遇というのが、最も怖い現実的な話として伝えられています。
しかし、そのクマと双璧を成す怖い話がもう一つあるのです。
山へ入る場合、通常はクマを避けるためにクマ避けの鈴を身につけます。
そのクマ避けとして昔から、鈴を身につける以外にやってはいけない、と言うのが、我々の集落で言い伝えとして残っているのです。
詳細な方法についてはなぜか明言が避けられてきたものの、 私も幼いころから、鈴を使う以外の方法でクマ避けをしては決してならない、と教え込まれてきました。
下手をすると、開いてはならない『霊門』を開けてしまう事がある、というのがその理由です。
その霊門は、『九死霊門(きゅうしりょうもん)』と呼ばれているのですが、 一説によると、『急死霊門』と書いて『きゅうしれいもん』と読む場合もあるようです。
この霊門の先には、冥界へと繋がる巨大な霊道がぽっかりと口を開けており、 付近を通るありとあらゆる生命体の魂を、ブラックホールさながらに引きずりこんでしまう、という恐ろしい言い伝えがあります。
その霊門が一度開いてしまうと、人の力では決して閉じることが出来ず、 次に閉じられるのがいつになるのかは、全く不明とのことです。
ただ、ある一定数以上の魂を引きずり込んだ後なのか、それともある一定期間を過ぎた後なのかははっきりしていないものの、 何もしなくても、いつの間にか閉じてしまうと伝えられています。
その霊門ですが、1人以上の人間の魂を生贄に開門するとされており、開門される条件として、はっきり分かっているものがいくつか伝えられています。
1、夕方から翌朝方までの、薄暗い時間帯から完全な闇までの時間帯であること。
2、1人ないしは2人という、少人数だけで入山していること。
3、ある特定のリズムで何らかの音を立てること。
4、開門の直前まで意識が保たれていること。
この他にも条件があるのかもしれませんが、私が覚えている範囲ではこんなところです。
実際にこの霊門が開いたという文献は殆ど残っていないのですが、 はるか昔に、多くの悲劇を生みだしたということが言い伝えで残っています。
また、仮にすべての条件を満たして霊門が開いてしまったとしても、 昼間などの明るい時間帯には、特に問題が発生しないようです。
つまり、薄暗くなるとぽっかりと霊道が口を開け、明るくなるとその霊道が一時的に道を閉ざすというのです。
九死霊門の名前の由来ですが、8人の死霊と一人の門番によってこじ開けられる霊門だから、という説があります。
入山した人間が、少なくとも上記の条件をすべて満たした状態で、何らかのリズムで音を鳴らした時に、それに呼応する形で、その人間を取り囲む8方向から順に、何らかの返事が返って来るといいます。
最初は遠巻きに聞こえていたその返事が、次第に輪を狭めていき、最終的には、その返事の正体が見えるか否かというところまで近づいたときに、 開門した霊道の内側(おもに地面や、山の斜面等)から不意を突いて、最後の死霊(門番)が襲いかかってきて、その人物を霊道に引き込んだことをもって、霊門が開かれるというのです。
正直、幽霊を見たことがなかった自分は、あまりその手の話を信じていませんでした。
ところが最近、その内容に非常に似通った内容の書き込みが某スレに投稿されたので、びっくりして書こうと思いました。
その内容によると、一般的に誰もがやってしまいそうな単純な方法で、霊道が開いてしまうようです。
そして、その書き込みでは軽く触れられていたのですが、開門の直前くらいのタイミングでたまたま気絶して助け出されたため、 霊門が開かなかったのかなという雰囲気が読みとれました。
我々の言い伝えとして残っている話でも、最後の最後で何らかの理由により気を失った人は、その霊門に引きずり込まれなかった、という話が出てくるのです。
万が一、その九死霊門が開かれていたとしたら、 それ以降に知らずに入山した多くの人が、犠牲になったのではないかと思うと、凄く怖くなりました。
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