置き手紙
朝、出かけにお兄ちゃんに、置き手紙ををした。
「お兄ちゃん、お鍋にお豆がひたしてあります。
それを煮て、今晩のおかずにしなさい。お豆がやわらかくなったら、
おしょう油を少し入れなさい。」
その日も一日働き、私はほんとうに心身ともにつかれ切ってしまった。
皆で、お父さんのところに行こう。私はこっそりと睡眠薬を買ってきた。
二人の息子は、そまつなフトンで、丸くころがって眠っていた。
かべの子供たちの絵にちょっと目をやりながら、まくら元に近づいた。
そこにはお兄ちゃんからの手紙があった。
「お母さん、ぼくは、お母さんのてがみにあったように、お豆をにました。
お豆がやわらかくなったとき、おしょう油を入れました。
でも、けんちゃんにそれをだしたら、
「お兄ちゃん、お豆、しょっぱくて食べれないよ。」
と言って、つめたいごはんに、おみずをかけて、それをたべただけでねちゃった。
お母さん、ほんとうにごめんなさい。でもお母さん、ぼくをしんじてください。
ぼくのにたお豆を一つぶたべてみてください。
あしたのあさ、ぼくにもういちど、
お豆のにかたをおしえてください。でかけるまえに、ぼくをおこしてください。
ぼく、さきにねます。あした、かならずおこしてね。
お母さん、おやすみなさい。」
目からどっと、涙があふれた。
お兄ちゃんは、あんなに小さいのに、こんなに一生懸命、生きていてくれたんだ。
私は睡眠薬を捨て、子供たちのまくら元にすわって、お兄ちゃんの煮てくれた、
しょっぱい豆を涙とともに一つぶ一つぶ、大事に食べました。
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